戦争で亡くなった方にこの作品を捧げる
1.ショート小説 No Look Back 振り返らないで
1945年の沖縄戦である防空壕に数十人の住民がいつものように避難していた。防空壕の前は幅10mほどの道で両側は崖になっており1kmほど大き目にカーブしてその先は森林になっていた。そこへ来るべき時が来た。アメリカ軍が攻めてきたのだ。防空壕内は大騒ぎになった。
「出てきてくれたら何もしません。水と食料もあります。安心してください。」アメリカ兵は防空壕近くに置かれた拡声器を通して日本語で言った。アメリカ兵は10人の部隊で森林に待機していた。隊長はジョンソンと言う名前だった。
数分経つと5~6歳の少女が一人で防空壕を出て森林に向かっていた。手には白い布が付いたはたきを持ち、足を怪我しているらしくビっこを引いていた。肩まである髪の毛は何日も風呂に入っていないせいかいろんな方向に向いていた。顔も薄汚れており、服は布を巻いているだけで穴がいくつも空いていて、まるで浮浪者だった。少女は速度は遅いがリズミカルに森林に向かっていた。
しばらくすると防空壕から男が出てきて同じく森林に向かい始めた。その手には日本刀を持っており、目を見開いて何か叫んでいた。まるで鬼の形相に見えた。
「裏切者もどって来い」と男は言いながら走っていた。男はアメリカ兵に向かったのではなく少女へ向かったのだ。それでも少女は真っすぐ前を向いてリズミカルに前進していた。
ここで1時間前にさかのぼる。
防空壕の中で少女と母親がいた。
「防空壕を出るから先に一人で行ってね。お母さんもすぐ後から行くから」と母親が言うと
「離れるのいやだよ。」と少女は言った。
「あなたは足を怪我しているから歩くの遅いでしょ、だから先に一人で行きなさい。でも一つだけ約束して、一生のお願い。防空壕を出たら後ろを振り返らないでまっすぐ森林に向かいなさい。振り返ると遅くなるから。」母親はそう言って少女を防空壕の中からは見えない入口近くにある小さなな穴に連れていった。
「ここでしばらく待っててね。防空壕を出る時は教えるから。」
そして場面は男が日本刀を持って走っていた。その様子を双眼鏡で見ていたジョンソン隊長は
「狙撃兵、少女の先の男を撃て」と狙撃兵に命令した。狙撃兵はスタンバイ後に1発目を発射した。しかしわずかにそれて崖に反射してカキーンと高い音が鳴った。距離にして800m、通常なら問題ない距離だが狙撃兵は外した。隊長と同様に照準器で事態を把握していた狙撃兵は、事の重大さに気づき泣いていたのだ。他の隊員も2~3名鳴き声が聞こえた。涙で照準がずれたため、涙をぬぐい再度2発目の準備に入った。
一方ジョンソン隊長は1発目が外れた後、速攻で森林から飛び出し全速力で少女の方に向かった。男と少女の距離の方が短かった。男は叫び声をあげて走っていた。
2発目の狙撃もはずれた。弾が崖に当たり音が反響した。少女は声にならない喘息のような声を発しながら必死にまっすぐ前に進んでいた。男の距離が少女に近づいていく。間に合わないと思ったジョンソン隊長は走りながらピストルを抜いて撃とうとした瞬間、3発目のライフルの弾が男の刀を持った腕に当たり男は倒れた。男は致命傷でないため再び起き上がり少女に刀を振り下ろそうとしたが、ジョンソン隊長のピストルで頭を撃ち抜かれた。刀は少女の1m後ろに突き刺さった。
ジョンソン隊長は驚いて立ち止まり硬直している少女をやさしく抱きかかえ
「もうだいじょうぶ」と日本語で話しかけた。少女は後ろを振り返ることもなく、隊長の目だけを見つめていた。息は荒いが声は出ていなかった。母親の姿はなかった。
それから1か月後に日本は降伏した。
アメリカのニューヨーク州にある裕福な家庭をジョンソン隊長は訪問していた。少女はこの家に引きとられていた。ジョンソン隊長を見た少女は駆け寄り両手で足を抱きしめた。少女に笑顔はなかったが、髪の毛は綺麗にブラッシングされ、肌艶もよく、足の怪我も治っていた。
「この子全然笑わないのよね。でもやさしい子なの。」と家の女主人は言った。
「この子を助けることはできたが、そのほかは何十人も死んだ。あり得ないことだ。この子は無事に育ってほしい。」ジョンソン隊長が話している間ずっと少女は両手で隊長の足にしがみついたまま離れなかった。
ー完ー
2.あとがき
終戦日を迎え心に思いつくままに書きました。沖縄戦の集団自決という悲しくあり得ない極限状況の中で、自決できない人もいたはずというところから発想しました。
キャストは決まっていて、少女は10年前のパシフィックリムに出演していたころの芦田愛菜ちゃん、ジョンソン隊長は現在のトム・クルーズさん、気丈な母親は現在の天海祐希さん、そして日本刀の男は羅生門のときの三船敏郎さんがいいです。あの鬼気迫る演技は三船敏郎しかいない。キャストを先に決めたことはエンタテインメントと考えたわけではなく、話への没入感を増幅させることに役立ちました。おかげで三日三晩泣けて眠れませんでした。最後まで読んでいただきありがとうございました。
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あかさはなた